夢みたもの
「航平?」


宮藤君の後ろ姿を見つめている航平に、あたしはそっと声をかけた。

あたしが知っている航平は、怖い顔という言葉が一番似合わない。

笑っていない航平は、想像出来なかった。


「航平?」


もう一度声をかけると、航平はハッとしたように振り向いて小さく笑う。


「あぁ・・・ゴメン。ぼーっとしてた」

「うん、帰ろ?」


あたしは航平に笑いかけると、航平の背中を押しながら歩きだした。


「何だか疲れたし、お腹減っちゃった」

「じゃぁ、コンビニ寄って帰る?」

「航平のおごりなら」


おどけてそう言うと、航平はあたしの髪がくしゃくしゃになる程頭を撫でて笑った。


「了解!何でもおごる」

「やった!」


それは、いつも通りの航平。

あたしは安心して一息つくと、航平の隣に並んで歩きだす。



その時。


教室のドアが開閉した音が聞こえた気がした。



思わず立ち止まって振り返ったけれど、そこには誰も居ない。


気のせい?

あたしは首をかしげた。


「ひなこ?」

数歩先で、航平が不思議そうな顔をしている。


「ごめん、何でもない」


そう言って笑うと、あたしは航平の隣に急ぎ足で戻って行った。



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