あなたに呪いを差し上げましょう
翌日の予定なんていつもなにもないから、夜更かししても問題ない。いやです、を両手の指が足りなくなりそうなほど言い張ると、とうとう折れてくれた。


「……わかりました。アンジー、くれぐれもお体にお気をつけて。無理はなさらずに」

「ええ。ところでルークさま、明日はお暇ですか」


まったくもって気をつけなさそうな気配がしたのか、頭を押さえて呻かれてしまった。


ほんとうにくれぐれも無理はしないように、と念を押してから、諦めた顔で返事を寄越す。


「夜でしたら時間があります。明日もこのくらいの時間にお会いしに参ります」

「楽しみにお待ちしておりますね」

「私も楽しみにしております」


約束をしたところで、ようやくお湯が沸いた。

香り高いお茶を淹れていると、後ろ手に隠していたお土産を渡された。


「ささやかですが。いただいてばかりでは申し訳ないので」


クリームと果物がたっぷり使われた菓子は、素っ気ない白箱におさめられている。店名が書かれていないということは、だれかの手作りかしら。


「ありがとう存じます。でも、御伽噺の悪い魔女のようなことをなさるのですね。夜遅くにこんな豪華なお菓子を食べさせようだなんて、わたくしをまるまると太らせて食べてしまおうというおつもりでしょうか」


静かな瞬き。


「これは失礼。美味しそうでしょう、あなたと一緒に食べたくなったのでつい。明日は茶葉を持って参ります」

「わたくしを寝させないおつもりですの? お茶には目を冴えさせる効果があると申しますわ」

「寝ずにお待ちいただきたいと望むのはわがままが過ぎますか。私を待って明ける夜も、私を待たずに眠る夜も、同じことなのでしょう」

「……いいえ、ちっとも」

「それは光栄です。やはり明日は茶葉をお持ちしましょう」


おどけてみたら、笑ってさらりと理由を訂正された。


……ううん、このお方、どう見ても手慣れているのよね……。
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