あなたに呪いを差し上げましょう
そわそわと朝早く起き出し、準備をし、念入りに掃除をして食器を磨く。刺繍をし、写本をする。


それでも、いつもならすっかり日が暮れるような長い体感時間に逆らって、いまだ窓の外は明るい。


「いらっしゃいませ」と言う練習をし、鳥と一緒に歌を歌い、控えめな食事をとる。


もう一度掃除をし、刺繍をし、写本をし、読書をしていると、ようやく辺りが暮れてきた。


ほんとうに来るのか半信半疑だった。くっつきそうなまぶたを何度も無理に離しながら、窓辺で待つ。


真っ暗闇に閉ざされたころ、控えめに扉を叩く音がした。起きていなければそのまま寝過ごしてしまうような、こちらを起こさないことに重点を置いた叩き方だった。


「夜分遅くに失礼します。お約束していたルークです。アンジー、起きていらっしゃいますか」


ひどくひそめられた、極々ちいさな名乗りが終わる前に扉を開ける。


練習したとおり、いらっしゃいませ、と見上げたものの、声に眠気がにじんでしまったのを、ルークさまは聞き逃してくれなかった。


「…………たいへん失礼しました、お(いとま)いたします」

「えっ、せっかく起きて待っていたのですから、帰らないでくださいませ……!」


ものすごい勢いでくるりと背を向けたルークさまの手を、慌てて引きとめる。


「ご無理なさらないでくださいと申し上げたではありませんか……!」


とっさの言葉なのに、昨日よりも敬語に隙がなくなっている。


身分がわからないように、わたくしのような者にも敬語で話すことに決めたのね、とぼんやり思いながら、「いやです」と首を振った。


「昨日あなたは『はい』とおっしゃったはずですが」

「やっぱりいやです。お待ち申し上げます。どうせひとりきりなのですもの。あなたさまを待って明ける夜も、あなたさまを待たずに眠る夜も、ひとりであれば同じこと」
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