彼は腐女子を選んだ
目を三角にして怒る荒川弓子をじろりとねめつけた。


「うるさい。自分、あきらの声、ちゃんと聞かへんから、いつまでも一方通行なんじゃないか?」


思い当たることもあったのか、荒川弓子はくやしそうに唇を噛んだ。



『ありがとう。正美ちゃん。声、聞けてうれしかった。』


リップサービスか、カレシのふりで言ってるのかわからないけれど、私の頬が勝手に緩んだ。


「ああ。私も。……帰国したら、また行くから。」

ついそんなことまで言ってしまった。


『……うん。待ってる。じゃあ。寝るわ。おやすみ。』

「おやすみ。」


……最後は、完全に2人の世界モードだったらしく、ひかりんがニヤニヤ見ていた。


あきらに無視され続けた荒川弓子は、黙って涙をぽろぽろと落としていた。


……キュン、とした。

かわいいって、ホント、うらやましい。

あれだけ憎まれ口たたかれてたのに、私は荒川弓子の失恋を気の毒に感じていた。



「……ずっと、好きなのに……。どうして、私じゃ、ダメなの……。どうして……。」


何か言ってあげたかったけれど、上手に慰めることはできないだろう。


「泣いてほしくないんじゃないかな。」
と、だけ言った。




結局、荒川弓子は、私達の部屋でめそめそ泣き続け……、泣き疲れて、眠ってしまった。



「……なんてゆーか……憎めないヒトね。かわいすぎて。」

ベッドを取られたひかりんは、呆れつつも、荒川弓子を気に入ったようだ。

「うん。びっくりしたけど、嫌いじゃない。……あきらも、かわいがってるんやろうね。」


……だから、荒川弓子には、病気のこと、言えないんだろうな。

大切にされてるんだと思うよ……。



「それにしても、まさみん、素直じゃないねえ。なに?モーニングデート?」

私のベッドにもぐりこんで、ひかりんはニヤニヤと尋ねてきた。

……そういや、パンを届けたこと、バレてしもたんやっけ。

「や。ついでに届けただけだ。」


「ついでって……あきらの自宅、まさみん()から、めちゃ遠いやん。学校超えて、まだまだ先やのに。」

「……食べたがってたからな。」


持って行ったのは、自宅ではなく病院なのだが、もちろん黙っていた。

……さすがに自宅に行くことは、これからもないだろう……。


そう思っていたのだが……。


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