彼は腐女子を選んだ
終業式の前夜、あきらは体調を崩した。

激しい頭痛に襲われて、念のために病院に行ったらしい。


<今は落ち着いたけど、明日の登校はダメって言われた>

しょんぼりした顔文字と共に、そんなメッセージが送られてきた。


もしかしたら……いや、たぶん、最後の登校のはずだったのに……。

かわいそうだが、ドクターストップなら仕方ない。


<残念だったな。登校前に、またパンを届けに行くよ。>


わずかの期間で、あきらはますます食事が辛そうになっている。

パンなんか、本当は、いらないはずだ。


なのにいつも、ものすごくうれしそうな顔をするから……。


<ありがとう。暑いからタクシーで移動してな。>

<や。学校にタクシーで行くわけにはいかんだろ。>


そう送ってみたけれど……少しでも私に負担をかけたくない、あきらの気遣いに甘えさせてもらうことにした。



翌朝、パンを買ってから国道に出て、流しのタクシーを拾った。

セーラー服でタクシーチケット利用と言うと、あきらかに嫌な顔をされたが、行き先が大学病院とわかると、神妙な顔に変わった。

……家族が入院してると思われたんだろうな……。


車中、私は知らず知らずのうちに、ため息を繰り返していた。

あきらの学校生活がこんなふうに打ち切られるなんて、思ってもみなかった。


今回もあきらは個室に入っていた。

「おはよう。気分はどう?」

「正美ちゃん!ありがとう!」

弾んだ声がカーテンの向こうから飛んできた。

シャッといい音がして、カーテンが開いた。

ら、ビシッとしたスーツの男女2人が立ち上がって、こっちを見ていた。


……どうやら、あきらのご両親のようだ。

「お父さん、お母さん。カノジョが堀正美さんです。正美ちゃん、うちの両親。」

「はじめまして!堀正美です。」

慌てて頭を下げた。


「はじめまして。いつも息子がお世話になっています。」

御父君は、名刺を差し出しながらそう言った。

恐る恐る受け取った。

……うん、大阪の弁護士さんだな。



「あきらの母です。だいぶご迷惑をおけしているそうですね。ごめんなさいね。」

御母君もまた、名刺をくれた。

こちらも、聞いていた通り、京都の弁護士さんだった。
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