彼は腐女子を選んだ
ひかりんは、私にしがみついて泣いた。


不思議なことに、こうしてみんなで泣いているのは……むしろ心地よかった。


みんながあきらを悼んで泣いている。

それがとてもうれしかった。


あきら。

あきら。


見てる?

聞こえてる?


独りじゃないよ。

やっぱり、あきら、独りじゃない。


みんながあきらを想ってる。

聞こえてるよね?



恥も外聞もなく、私もむせび泣いて……ひかりんと担任に背中を押されて、教室を出た。


******

タクシーで病院に駆け付けた。

いつもの病室に行くと、神妙な顔の医師達がいた。


「正美ちゃん。……こっちへ。」

御父君に呼ばれて、あきらの枕辺に立った。


綺麗な顔……。

もう、苦しくも、痛くもないんやね。


よかったね……。


眉間の皺も、ほどけて、天使のように眠っているあきら。

生きていてくれるのなら、このまま機械で生かせていてほしい。
ついついそう思ってしまう……。


だって、あんなに辛そうだったのに、こんなに穏やかな顔で……。


ダメだ……。

涙が止まらない。


でも、もっとちゃんと、あきらを見ていたい。


あきらに、触れたい。

……もっと、触れてもらえばよかった。


無理しても、いろんなところに行けばよかった。



一緒に映画も観たかった。

一緒に行きたいお店もいっぱいあった。

一緒に……一緒に……もっと一緒にいたかったよ。



あきら……。


好きだ。

好きだって、私、ちゃんと伝えたっけ?


何度も言わされたし、言ったけど、冗談じゃなくて、本当に好きだって、伝わってたかな?



あきら。

あきら。

あきら。


ありがとう。


あきら。





私が泣き止むのを待って、医師が人工呼吸器の機械を止めた。

すぐにあきらの呼吸と血圧と脈拍が、静かな線になった。


医師があきらの心肺停止を確認し、死亡が告げられた。




9月1日9時45分。




あきらの魂が、身体から抜けだし、ふわふわと浮き上がる。


病室の空間の上にまだあきらの魂が漂っている……そんな不思議な感覚から、私は何度もきょろきょろと上を見た。



もちろん何も見えなかった。


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