彼は腐女子を選んだ
1年1ヶ月後。

ようやく、病院からあきらが帰ってきた。



ご両親は納骨を日曜日に定めて、わざわざ私を誘ってくださった。

久し振りのお会いしたあきらのご両親は、何だかお二人とも、若返っているように見えた。


「正美ちゃん。元気そうね。受験勉強がんばってる?」

「はい。真面目にやってます。……第一志望は京都で、第二志望は大阪です。」

「あら~。じゃあ、合格したらうちでアルバイトしない?歓迎するわ。」


私は笑顔で頷いた。

「ありがとうございます。勉強させてください。法学部に行って弁護士になりたいんです。」


あきらのやりたかったことを、私もやってみたい。

今は本気でそう思っている。


御母君の瞳が潤んだ。

「……そう……。うれしいわ。ありがとう。……本当に、ありがとう。」


涙だけじゃない。

感謝と希望が、ほほえみを生み出した。



私たちは、後ろを向かず、歩いている。

あきらの想いと共に。

あきらと一緒に……。



*****


納骨を終えて帰宅した。


家の前で、兄上が煙草をふかして立っていた。

「また煙草吸ってる。るうさんに言い付けるよ。あっくんのアトピーが悪化する!」

「……手持ち無沙汰でな。」


兄上は渋々煙草をもみ消した。


だいぶ前にやめたはずの煙草を、兄上は再び吸い始めた。


……きっかけは、あきらの死。


あれ以来、兄上は半分死んだみたいに生きている。

無気力というか……妻のるうさんも呆れてしまってて……そのうち、捨てられそうだ……。


「せめて電子煙草にすればいいのに。」

「……煙をくゆらすのが好きやったんや。」



……主語は、たぶん、あきらなのだろう。



私が腐女子だからか、兄上はあきらのことを秘密にするのをやめたようだ。

誰かに話さないと、心が壊れてしまいそうなのかもしれない。


いっそ何もかも忘れてしまえればいいのに、とこぼしたこともあった。



……やれやれ。

ロマンチストだよ、兄上も、あきらも。
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