彼は腐女子を選んだ
中村上総のように、好きなら好き!って、押し倒してしまえばよかったのに。


……まあ、かくいう私も……処女だけど……。



「今日、納骨してきたよ。」

「……ああ。」

「1年で返してくれるって言ってたのに、遅かったねえ。」

「仕方ないだろう。若い献体だ。調べたいことはヤマほどある。引っ張りだこやったからな。」

「……そうか。まあ、役に立ったのなら、あきらも本望だろう。しかし、死んだ後までモテモテだな。あきら。」

「笑えねえな、それ。」


顔をしかめた兄上に、私は笑えた。




玄関のドアが開いた。

兄上とるうさんの愛息子が、顔を出した。

まだ上手に歩けず、すぐに尻餅をつくくせに、ちょこちょことよく動き回る子だ。


「あっくん、ただいま~。んー、かわいいかわいいかわいい。でも危ないから、中に入ろうか。」


私は、甥っ子を溺愛していた。

いかつい兄の血が入っているとは思えない、天使そのもののかわいらしい男の子だ。


「兄上も。行こう。お菓子もろてきた。あきらの好きやった北海道のお菓子。わざわざ取り寄せてんて。切るし、食べよう。」

「……あー。うー。あーあー。」

あっくんが、自分が呼ばれたと思ったらしく、反応した。


かわいいなあ、と頭を撫でた。

「よしよし。あっくんじゃないよ。でも、あっくんも食べようね~。美味しいよ。」


甥っ子を連れて中に入ろうとしたら、兄上がつぶやいた。

「……おかしいよな。俺は、おまえの心配をしていたのに……俺はいつまでもこんな情けない状態で……おまえは、強いな。よくやってるよ。」


ふっ……と、笑えた。


「最近、思うんだけどさ。……私、あきらのおかげで強くなったんだと思う。……てかさ、もともと他人のこととか興味なかっのに……ご両親とか、先生とか、荒川弓子とか、中村上総とか……兄上にもるうさんにも、看護師さんたちにも?……みんなにあきらのことを託されて……なんか……人の為にがんばることに目覚めたというか。認められて、頼られることが、うれしいってことを知ってしもてん。……すごいと思わへん?だから今は、みんなのため、イコール、あきらのため、イコール、私自身のため、って感じやねん。わかる?」
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