エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 意味深な声音で囁かれ、かぁっと頬が熱くなった。

 恋愛初心者の私にでも、その言葉の意味くらいはわかる。

 わかるけど、あり得ない! 今日出会ったばかりの彼と既成事実を作るなんて!

「え、遠慮します!」

 ふいっと顔を背けると、顎から手を離した司波さんがくくっと喉を鳴らして笑う。

「本当に男を知らないんだな。こんな冗談くらいで真っ赤になるなんて」
「か、からかわないでください!」
「悪い。反応が新鮮だからつい苛めたくなって」

 片側の口角をひゅっと上げ、不敵な笑みを浮かべた司波さん。私の料理を食べてから、お見合い中やその直後よりますます意地悪になってる気がするんだけど、なぜ?

 これ以上心を乱されるのには耐えられそうになく、私は今度こそ暇を告げる。

「と、とにかく、今日のところはこれで失礼します! 父への連絡はお任せしますので!」
「おい、ちょっと待て。お前の連絡先を教えてから帰れ」
「あっ。そうですね……。すみません」

 私は慌ててスマホを出し、司波さんと連絡先を交換した。

 友達や仕事関係者以外を電話帳に登録するのは初めてなので、画面に表示された司波さんの名前を眺めるだけで、くすぐったい気分だった。

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