渚便り【完】

小瓶の中に閉じ込められた

あれから季節が何度も巡り、過ぎゆく時の流れに急かされるかのように私は大人になった。
有り触れた平凡な生活を続け、長い間交際した趣味の合う男性と結婚し、新たな命を授かり、今では温かな家庭を築いている。
愛する我が子は近頃どこで覚えてきたのか、ちょっぴり生意気な言葉を使うようになったくらいにまで成長していた。

右手には子供の小さな手、左手には手作りのサンドイッチをたくさん入れたバスケットを持ち、私は遠足気分を味わいながら浜辺を歩く。
今日は旦那が仕事なので、娘と二人だけで海に来たのだ。


「こんどはパパもいっしょがいいなあ」
「そうだね。今日の夜約束しておこっか」
「うんっ」


優しく笑い掛けると、娘は繋いだ手にぎゅっと力を込めて元気よく頷いた。
たまに、この子の笑顔が昔の私によく似ていて心苦しくなる時がある。
世の中のどうしようもないことを恐れる前の、まだ夢を見続けることを許されていた頃の私。

愛とか勇気があればなんだってできる、不可能を可能にできる。
あの頃はそういう綺麗事をまっすぐに信じていた。

そういえばあのやたら前向きな口癖も、まだそうやって純粋無垢でいた頃によく口にするようになったんだっけ。
今じゃ言う機会も減っちゃったけれど、最近娘が私の代わりを果たすかのように「なんくるないさ」と笑うのは、きっと幼稚園で友達の影響を受けたのだろう。
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