渚便り【完】
「あ、ママー!なんかあるよー」


突然娘が向こう側を指差すと、繋いでいた手を離して波打ち際に駆けていった。
見たところ特別何かが見当たるわけではない。
水平線の上に発見した小さな船の影のことを言ったのだろうか?
私はその場で足止め、黙って娘の行動をうかがっていた。

すると娘はしゃがみ込んで何かを拾い上げるなり、それを見せつけるかのように掲げてこちらに戻ってきた。
持ってきたのはどこにでも転がっていそうな、何の変哲もない小瓶。


「なんか入ってるぅー」


しかしその中に入っている折りたたまれた紙の存在に気付いた瞬間、私の脳裏には何年も前の記憶が鮮やかに蘇ってきたのだ。
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