勇者がうちにやってきた▼【完】
「自分でやれるからやめてよー」
「きゃはは~、チトセちゃん可愛いぃ。姫ちゃんほどじゃないけどぉ」


一言余計だ!姫に勝とうだなんてはなから考えちゃいないけどさ!

心の声で突っ込みつつも、私は身をよじってちよこさんの魔の手から逃れようと必死だ。
ホックを外されているのに加え、肩紐まで落ちてきているので、手で押さえてないとブラがずり落ちてしまう。

もー、お願いだから誰か助けてー!姫ー!
尚も心の声で叫んだ次の瞬間、目の前が真っ白になった。
今耳に届いたあの効果音はもしかしなくても……!?


「ひゃぁ~ん、今度はだぁれ~?」


ちよこさんのセリフからするに、これは“ぶっとびの巻物”の演出に違いない。
狭い空間では煙がよく充満する。
私は何度も咳き込みながら、左手で胸元を押さえつつ右手で宙を扇いだ。


「お客様、どうされましたか!?」


今の音や煙に気付いたらしい店員の声がする。
その声のすぐ後に、


「んだよコレ~、巻物の力、マジパないっしょー」


耳元で鼓膜を揺らした声は、まぎれもなく男のもので。
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