勇者がうちにやってきた▼【完】
「どうしてあーくんがここに?マオちゃんと勝負してたんじゃ?」
「魔王を秒殺して暇だったので散歩していたら、近藤さんがチトセが溺れたと言うじゃないですか。なので人工呼吸で息を吹き返したのを確認してから、疲労回復に使えそうな海草を探しに行ってたんですよ」


そう言ってだらんとした緑色の海草を見せつけてくるあーくん。
いや草で回復とかゲームの世界じゃあるまいし。そんなんで簡単に体力が回復してたまるか。
だいたい“でたくえ”でHP回復はまず納豆だろう。


「良かったです。チトセに死なれたら僕が困りますからね」


というのも、私が死んだら自分が元の世界に帰れなくなるからだろう。
そんなことより着目すべきは近藤だ。

あーくんと話しながら笑っている近藤に目をやる。
するとこちらの視線に気付いた近藤が、私と目が合うなりニカッと極上のスマイルを作りやがったのだ。
なんなんだ、一体全体なにがどうしたというのだ。近藤の意図がまるでつかめない。
だけど自惚れじゃないとしたら、もしかしなくても近藤は私に気があるのではないだろうか。だから躊躇なく人工呼吸をして私を助けてくれたのではないだろうか。
つまり今回の海水浴に参加したのも、メンバーに私がいたから?


「チトセも無事でしたし、皆さんのところに戻りましょうか」
「そうっすね。菱沼、歩けるか?」
「あ、うん……」


心臓がうるさい。
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