勇者がうちにやってきた▼【完】



今日はバイトだったので帰路に着く頃には、たいぶ遅い時間になっていた。
うちの学校は午前中に始業式を行い、午後からは通常の授業になるため、長期休暇明けだからといって特別早く帰れることはないからだ。

最近ようやく陽の出ていない時間帯が涼しいと感じるようになった。
それでもまだまだ昼間の残暑は厳しいけれど。
心地よい夜風を感じつつも帰宅し、リビングに移動しようとしたら、


「やぁ~ん、姫ちゃんったら激しすぎぃぃぃ~」


二階からちよこさんが転げ落ちてきた。
明らかに痛みを伴っているモーションだったのに、その表情は愉悦に満ちている。


「締切が近いんですの!邪魔をしないでくださいまし!」


二階から姫の怒気を孕んだ声が降ってくる。
どうやら締切間近でピリピリしている姫にちょっかいを出したちよこさんに非があるようだ。
実は姫、少し前にその才能を見込まれ編集局からスカウトの声がかかり、とある雑誌でBL漫画を連載することになったのである。
晴れてニートから漫画家へジョブチェンジした姫だけど、その仕事柄相変わらず引き籠り生活を送っているのが少々心配だ。
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