勇者がうちにやってきた▼【完】
ああもう、どいつもこいつも土足のままだし……。


「魔王ったら突然姿を消したからビックリしましたわ。慌てて追いかけてきちゃいましたもの」
「貴様も巻物を使ったというのか!?」
「ええ。あの程度の粗末な品、わたくしの財力を活かせばいくらでも手に入りましてよ」

本来なら超が付くほど苦労してやっとゲットできる代物だというのに。
それをものの数分で入手し使用してきたのだから、魔王の入手ルートと言い、王族ってあなどれない。


「あら勇者。どうして貴方がここにいらっしゃるのかしら?」
「お久しぶりです姫。自分は今クエストでここを訪れていまして」
「そうでしたの。ご苦労様ですわ」


背筋を伸ばし気をつけをして、やけに畏まった態度をとるあーくん。
相手が姫ともなればそうなるものか。
納得した様子の姫は、再び魔王に視線を戻す。


「それで、魔王はなぜここに?」
「ワガハイは勇者を追いかけてきただけなのだ!勇者を倒すのはこの泣く子も黙る魔王であるこのワガハイだけなのだからな!」
「……は?ザコの分際で何をほざいてるのかしら」


ピシリ、と凍りつくように場の空気が一点した。
姫の笑顔がだんだんと般若のように変貌していく。
私の隣へ避難してきたあーくんが手を合わせて目をつむり、「ご愁傷様です」と呟いた。
何が起こるのか分からなかった私は、その後目の前で起きた光景に愕然とさせられたのである。
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