温もりが思い出に変わる頃【完】
ずっと好きでした。
喉まできていたその言葉を飲み込んだのは、これ以上心の距離が縮まることを恐れていたからだろうか。

長年画面越しで追いかけていた人物は、言わば架空の存在に近かった。
自分の立つどん底の遥か上にあるお天道様のように、私を照らし励まし続けてくれた須藤さんの存在。
何度も近付くことを夢見ていたけれど、いざこうなると躊躇ってしまう。
これ以上このお天道様に近付いたら燃やされて灰にされてしまう気がして。

この場で想いを伝えても先には何もないことは分かり切っていたから。
だから私は唇を噛み締めて、特別な想いを口にしないよう歯止めをかけた。


「すっ……さ、とうさんっ!す、とぉ、さぁん!」


思わず佐藤ではなく須藤と呼んでしまった時、須藤さんの瞳が微かに開かれた。
それから須藤さんが何かを悟ったように目を伏せたのを私は見逃さなかった。

ああ、ごめんなさい。最後まで嘘を通す演技ができなくて。こんなんだから、私役者になれなかったのかな。
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