温もりが思い出に変わる頃【完】
あの頃から少し年をとったものの、変わらず綺麗で端整な顔立ち。
子供の頃の私の目に狂いはなかった。初恋をこの人に捧げて間違いはなかった。

私がこみ上げてくる感情に涙をぐっと堪えていると、須藤さんは私の頬に手を添えて触れるだけの口付けをしてくれたあと優しげに、だけど切なげに微笑んだ。


「光里、僕を求めてくれてありがとう」


違うよ須藤さん、「ありがとう」は私のセリフなんです。
長年私が心からあなたに伝えたいと願っていた言葉なんです。
たくさん夢を見させてくれてありがとう。
道を踏み外してしまったけれど、あなたを目指して役者の学校に行ったこと、それが原因でもあり今このような仕事をしていること、だけどそのお陰であなたに会えたこと、どれも貴重な経験で後悔はありません。
これは全て、確かに私の人生ですから。

本当にありがとう須藤さん。今日という日は私にとって一生忘れない思い出になることでしょう。
憧れのあなたの温もりを感じることができて、私は今とても幸せです。
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