温もりが思い出に変わる頃【完】
* * *


あの日以来、私は風俗業から足を洗い、須藤さんから褒められた穏やかなオーラとやらを自負し、某チェーン店のお菓子屋の店員に転職した。
須藤さんが来店した時既に借金は残っていなかったし、それどころか貯金もそこそこあったから、気持ちに整理がついたのを機に別な職に移ろうと考えたのだ。
もちろんそのキッカケは須藤さんと体を重ねたあの日の出来事にある。

あのままあそこに務めていたら、もしかしたらまた須藤さんが来てくれるんじゃないか、なんて期待も少なからずあった。
だけど同時に抱いた罪悪感が私の目を覚まさせてくれたようだ。


「ていうか光里と会うの超久し振りじゃない?」
「ねー!なんか名前卒業してから、そっちから全然連絡くれなくなって心配してたんだよ!会おうって誘っても食いつき悪いしさー」
「あはは、ごめんごめん」


繁華街にある洒落た喫茶店に来ている私達は、高めの声が弾ませながら会話を楽しんでいた。

専門学校の同期とこうして堂々と顔を合わせるのはいつぶりだろう。
肩身が狭くて遊びの誘いもずっと蹴ってたからなぁ。
きっとこのあと詳しく聞けるんだろうけど、みんなはしっかり役者に携わる仕事に就いてるんだろうな。
そう考えると、私だけ盛大に挫折をしてしまったみたいで、ちょっぴり複雑な気持ちになる。
アイスティーの入ったグラスにストローをさしながらそんなことを考えてしまった。
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