【完】黒薔薇の渇愛




「んっ……あま、ね?」


「……っ、奏子!!」


倒れていた体をゆっくりと起こして、少しの間だけ気絶していた奏子がボヤけた視界のなか、私を映す。


「よっ、よかった……」


「なんで……お前こんなところに」


「奏子のこと、助けに来たんだよ」


「…………はぁ?」


「ほら……帰ろう」


別に、間違ったことは言ってないはずだった。


これが正しくて

見て見ぬふりをすることが出来なくて。


自分の今ある力でここまで来たのなら、上出来だと思う。


だけどそんなものは、他人にとって……ううん
奏子にとっては傷口に塩を塗る行為だったのかもしれない。



ーーパシッと、奏子に向かって伸ばした手を払われる。


「……そう、し?」


「お前さ……なんなの?
 俺がお前のこと売ろうとしたのは確かだし、俺はそれを悪いとは思っていな……いや。
 こんなことして、逢美とゴタゴタになったことだけは後悔してるけど」


「……」


「"助けに来た"とか正気で言ってんの?
 ……ならお前、頭おかしいよ」


「……っ」


「俺を助けて美談にでもするつもりか?
 そうだよなー、お前いじめられてて友達いなかったから、俺しか側にいないもんな」


奏子の渇いた小さな笑い声が、物が乱雑した部屋には嫌に響く。




「女に助けられても嬉しくねーよ……っ!
 つかちょっと優しくしたくらいでその気になってんじゃねーよ気持ち悪い」


「……そうし、ちがっ」


「違わねーだろ!!
 自分のことだとウジウジして、いじめた奴らにも言い返せない弱虫のくせに。
 お前見てるとイライラするんだよ!!」


「ーーッ」



< 92 / 364 >

この作品をシェア

pagetop