子ども列車
 ここは、ボロアパートの一室ー。
 女性の怒号が、外まで聞こえていた。
 「あんたなんか、産むんじゃなかった!!
あんたなんか、死ねばいいのよ!!
あんたのせいで、私の人生、めちゃめちゃ!!
私の人生、返してっっ!!」
 女性の怒号の合間に聞こえてくる、子どもの泣き声…。
 「ごめんなさい!!
やめて、おかあさん!!」
「うるさいっっ!!
あんたなんか、居なくなればいいのよっっ!!」
 母親は、ベランダのガラス戸を開け、子どもを放り出した。
 そして、ベランダのガラス戸の鍵を閉めた。
 「おかあさん!!
ごめんなさい!!
いれてよっ!!
さむいよぉっ!!」
 子どもは、泣き叫びながら、ガラス戸を叩いた。
 「うるさいっっ!!
うるさいっっ!!」
 母親は、両手で、両耳を塞ぎ、両膝をつき、勢いよく、カーテンを閉め、頭を抱え、泣いた。
 子どもは、泣き叫び続けた。
 それでも、母親が、ガラス戸を開けることはなかった。
 泣き疲れた、子どもは、冬の寒空を見上げた。
 外は、雪がちらついていた。
 子どもは、ベランダに座り込み、息を手に吹きかけ、暖をとった。 
 夜になると、母親は、化粧をし始めた。
 それから、仕事に行く前に、カーテンを開いた。
 母親は、子どもを、まるで、ゴミでも見るような、目つきで、子どもを見下ろした。
 子どもは、それに気が付き、また、ガラス戸を叩いた。
 でも、母親の目つきは、変わらなかった。
 そして、子どもに、暴言を吐いた。
 「ほんっっと、あいつに似て、憎らしい顔っっ!!
そんな顔で、こっち見ないでよっっ!!
あー、ムカつくっっ!!
一晩、そこに居なっっ!!」
 それだけ言うと、母親は、再び、カーテンを閉め、仕事に行った。
 子どもは、体操座りをして、何度も、手に息を吹きかけ、暖をとっていた。
 22時頃ー。
 そんな子どもの前に、丸い明かりが2つ現れた。
 あまりに、不思議なことだったので、子どもは、目を凝(こ)らして、明かりを見た。
 その明かりは、列車の明かりだった。
 白い煙を吐きながら、空中に浮かぶ、5両編成の赤い列車が、子どものいる、ベランダに近付いてきた。
 子どもは、目をパチクリ…。
 すると、3両目の出入り口が開き、太っちょの車掌が現れた。
 不振がる、子どもに、車掌は優しく微笑んだ。
 それから、車掌は、子どもに向かって言った。
 「おほんっ。
明石(あかいし)かのん様、5歳ですね?」
 かのんは、自分の名前と年齢を言われ、驚きの表情をし、何度も頷いた。
 車掌は、再び、微笑んだ。
 「ようこそ、子ども列車へ!!
どうぞ、お入りください。
中は、温かいですよ。
さぁ、どうぞどうぞ。」
 そう言って、かのんを、招き入れようとした。
 でも、かのんは、不安がって、入りにくそうにした。
 車掌は、優しい声色(こわいろ)で、かのんに聞いた。
 「どうかしましたか?」
「あたし…、おかね…、なくて…。」
「そのことで、悩んでいたのですね?
ご心配なく。
この子ども列車は、全て、タダです。」
「タダ?!」
「そうです。」
「じゃあ、乗ります!!」
「ご乗車、ありがとうございます。」
 かのんは、大喜びで、列車に乗った。
 車掌は、ニコニコしながら、列車内の案内を始めた。
 「まずは、1両目から、ご案内しましょう。
1両目は、食堂車です。
お腹が空いたら、ここを使って下さい。」
「はい。」
「次は、2両目から4両目ですが、こちらは、寝台車となっております。」
「しんだいしゃ…?」
「失礼しました。
眠くなった時に使うところです。」
「へぇー…。」
「最後に、5両目ですが、5両目は、お風呂になっております。」
「お風呂?!」
 かのんは、大喜び。
 「まずは、何をしますか?」
「お風呂!!」
「分かりました。」
 車掌は、かのんを、5両目に連れて行った。
 「それでは、ごゆっくり。」
「はい。」
 かのんは、大きくて、温かいお風呂に入れて、大喜び。
 お風呂の後、かのんは、食堂車に行った。
 すると、奥から、太っちょnコックが出てきて、かのんを席まで案内してくれ、メニューを渡してくれた。
 かのんは、その中から、お子様ディナーとオレンジジュースを注文した。
 コックは、かのんに、お辞儀をして、キッチンに入って行った。
 少しして、オレンジジュースがきて、次に、コーンスープがきた。
 かのんは、オレンジジュースを一口飲み、コーンスープを飲んだ。
 それから、サラダとパンとカットステーキがきた。
 かのんは、パクパク食べた。
 「(こんなに、あたたかくて、おいしいごはん、ひさしぶりにたべた。)
(すごく、おいしい。)」
 そこに、車掌が来た。
 「お味は、いかがですか?」
「とってもおいしいっっ!!」
「それは良かったです。」
 車掌は、優しく、微笑んだ。
 かのんは、お父さんが居た時のことを話した。
 「おとうさんがいたときは、おかあさんも、あたたかい、おいしい、ごはん作ってくれてたんだよ。」
「そうですか。」
「でも、おとうさんがいなくなってから、ごはんが、なくなったの。
あっても、つめたい、ごはん…。」
「そうだったんですか…。」
「おふろも、つめたくて、あまり、はいれなくて…。」
「そうだったんですね…。
では、この子ども列車で、ゆっくりして行って下さい。」
「はいっ!!」
 ご飯を食べると、かのんは、寝台車に行き眠った。
 その様子を見た、車掌は、時間をいじり、列車の外の時計を止めた。
 かのんは、ゆっくりと眠ることが出来た。
 朝7時15分前ー。
 かのんは、起こされ、ベランダに帰ってきた。
 列車は、かのんを降ろし、空へと旅立った。
 かのんは、列車が見えなくなるまで、手を振った。
 その後、すぐに、母親が、コンビニ弁当を持って帰ってきた。
 母親は、帰ってくるなり、ベランダの鍵を開けた。
 そして、母親は、寝室に行った。
 かのんは、母親が起きないように、母親が買ってきた、コンビニ弁当を自分の弁当箱に詰め、水筒を準備し、幼稚園の制服を着て、幼稚園に向かった。
 幼稚園から帰ると、かのんは、弁当箱と水筒を洗って、洗い物カゴに入れた。
 17時ー。
 母親が起きた。
 起きると、すぐに、温かいお湯のお風呂に入った。
 でも、かのんは、入らせてもらえなくて、母親が、化粧をしている間に、冷めた、お風呂に入らせてもらった。
 「(おゆ…つめたい…。)
(こどもれっしゃ、こないかなぁ…。)」
 そんなことを考えていると、「お風呂が長い!!」と、母親は、かのんの髪を引っ張り、お風呂から出した。
 「おかあさん、ごめんなさい!!」
「さっさと着替えなっっ!!」
「はい…。」
 かのんは、厚着ををした。
 そんな、かのんを見て、母親は、殴る蹴るの暴行を加え、ベランダに、放り出した。
 そして、ベランダの鍵を閉め、カーテンを閉めた。
 かのんは、また、手に息を吹きかけ、暖を取った。
 21時ー。
 また、子ども列車が来てくれた。
 かのんは、大喜び。
 車掌が、かのんを招き入れると、かのんは、すぐに、お風呂に入った。
 「(はぁー…。)
(あったかーい…。)
(きもちいい…。)」
 お風呂から出ると、食堂車に行った。
 すると、昨日のコックが来た。
 「ようこそ。
さぁ、何にされますか?」
「ミートスパゲッティーとオレンジジュース!!」
「かしこまりました。」
 コックは、お辞儀をし、キッチンに行った。
 ミートスパゲッティーとオレンジジュースは、すぐに来た。
 「お待たせしました。」
「わーい!
おいしそう!!」
 かのんは、ミートスパゲッティーを頬張った。
 「(おいしいーっっ!!)」
 かのんは、大喜び。
 ご飯を食べ終わると、かのんは、寝台車で眠った。
 車掌は、それを見て、時間をいじった。
 7時15分前ー。
 かのんは、ベランダに、送り届けられた。
 母親が、コンビニ弁当を持って帰ってきたのは、かのんが、ベランダに戻ってきた、20分後だった。
 母親は、ベランダの鍵を開け、かのんを家に入れた。
 かのんは、自分の弁当箱に、コンビニ弁当を詰め、コンビニで買って来てくれた、お茶を自分の水筒に入れ、幼稚園の制服に着替え、幼稚園に行った。
 幼稚園から帰ると、かのんは、自分の弁当箱と水筒を洗い、洗い物カゴに置いた。
 そして、制服を着替えた。
 すると、母親が、起きた。
 「あんたさぁ、静かに出来ないの?
弁当箱と水筒、もっと、静かに洗いなさいよ!!
それか、私が、仕事に行ってから、洗えばいいでしょ?!
そんなのも、分からないの?!」
 母親は、かのんを殴ったり、蹴ったりした。
 「おかあさん、ごめんなさい!!
いたいっ!!
やめて、おかあさんっっ!!」
「うるさいっっ!!」
 母親は、かのんの髪を引っ張り、ベランダに放り出し、鍵を閉めた。
 かのんは、ガラス戸を、泣き叫びながら叩いた。
 母親は、カーテンを閉め、両耳を両手で塞ぎ、「うるさい!」を連呼した。
 かのんは、母親が、仕事に行くと、夜空を見上げた。
 「(こどもれっしゃ、こないかなぁ…。)」
 すると、子ども列車が来た。
 「(あー、こどもれっしゃーっっ!!)」
 かのんは、目を輝かせた。
 車掌は、かのんを招き入れた。
 かのんは、ずっと、思っていたことを、車掌に話した。
 「あの…、こどもれっしゃには、ずっと、のれるの?」
 車掌は、首を振り答えた。
 「いいえ。
子ども列車に乗れるのは、7回までです。」
「そうなんだ…。」
 かのんは、しゅんとした。
 車掌は、かのんを、食堂車に連れて行った。
 「かのん様、7回目の時の話しをしましょう。
その前に、かのん様、何を飲まれますか?
話しが、長くなるかもしれませんので…。」
「じゃあ、あったかい、ここあ。」
 車掌は、コックに、ココアのホットと、コーヒーを注文した。
 飲み物は、すぐにきた。
 かのんは、ココアを飲んだ。
 「おいしいー。」
 車掌は、優しく微笑んだ。
 「飲み物がきましたので、お話ししましょう。
子ども列車に乗れる最後の日。
お帰りの際、記念切符をお渡しします。
記念切符は、お母さんに見つからないように、お母さんのバッグに入れて下さい。
そうすると、かのん様にいいことがあります。
ぜひ、使って下さい。」
「はい。
(いいことってなんだろう…。)
(こどもれっしゃ…、ずっと、のりたかったなぁ…。)」
「では、本日も、子ども列車で、楽しんで下さい。」
「はい。」
 かのんは、いつも通り、子ども列車で、楽しんだ。
 かのんが、眠りにつくと、車掌は、時計をいつもより長く止めた。
 それを見た、コックは、車掌に、話しかけた。
 「今日は、いつもより、長く止めるんですね。」
「ええ。
説明が、長引きましたからね…。」
「なるほど。」
 7時15分前ー。
 かのんは、ベランダに送り届けられた。
 母親が帰ってくると、ベランダの鍵が開けられ、かのんは、幼稚園の準備をして、幼稚園に行った。
 そして、かのんが、子ども列車に乗れる、最後の日がきた。
 「(きょうで、さいごかぁ…。)
(さみしいな…。)」
 そんな、かのんの前に、子ども列車が来た。
 いつもの3両目の出入り口から、いつもの車掌が、出迎えてくれた。
 「こんばんは、かのん様。
本日で最後ですね…。
寂しくなります。
本日は、たっぷりと遊んで下さい。」
「はい。」
 かのんは、まず、お風呂に入り、食堂車に行った。
 行くと、いつものコックが出て来てくれた。
 「かのん様。
本日が、最後ですね。
寂しくなります…。」
「あたしも…。」
「では、本日は、特別メニューを、お出ししますね。」
「ありがとう。」
 コックは、特別メニューを、出してくれた。
 「わぁー…。
すごい、ごちそうだぁー…。」
 出してくれたメニューは、コーンスープ、生ハム、サーモンのカルパッチョ、ハンバーグステーキ、パン、デザート(いちごのショートケーキ)、オレンジジュースだった。
 かのんは、特別メニューを、大喜びで食べた。
 食べ終わると、もう一度、お風呂に入った。
 お風呂を出ると、寝台車で眠った。
 車掌は、それを見て、時間をいじった。
 列車を降りる時、車掌は、記念切符を、かのんに渡した。
 母親は、帰ってくると、いつものように、ベランダの鍵を開けあた。
 かのんは、幼稚園に行く準備をしながら、母親にバレないように、母親のバッグに記念切符を入れた。
 それから、かのんは、幼稚園に行った。
 幼稚園から帰ると、母親が起きていた。
 「(おかあさん、起きてる…。)」
 それだけで、かのんは、ビクッとなった。
 でも、母親の様子が、いつもと違った。
 「(なぐられる…?)
(けられる…?)」
 かのんは、ビクビクしながら、弁当箱と水筒を洗った。
 「(「うるさい!」っていわれる…?)」
 母親は、何も言わず、ボーっとし始めた。
 夜になるにつれ、母親は、益々、ボーッとなった。
 かのんは、母親に声をかけようとしたけど、「(なぐられる…?)」と思い、声をかけられなかった。
 夜7時ー。
 外に、2つの明かりが見えた。
 「(こどもれっしゃ…?)
(でも、「さいご。」って、いわれたし…。)
(それに、いつもより、はやいっ!)
(どうしたんだろう…。)」
 かのんは、ベランダに出た。
 すると、黒い煙を吐く、真っ黒な列車が、空中に浮かんでいた。
 かのんは、驚いた。
 「(こどもれっしゃじゃない!!)」
 かのんは、後ずさりした。
 後ずさりすると、母親にぶつかった。
 かのんは、「(なぐられるっっ!!)」と思い、ぎゅっと目を瞑(つむ)った。
 だけど、母親は、ボーッとしたままで、黒い列車に近付いた。
 母親が、近付くと、3両目の出入り口が開き、中から、ガリガリで、目がギョロっとした、顔の怖い車掌が出てきた。
 車掌は、母親に、「切符は、お持ちですか?」と聞いた。
 母親は、記念切符を、車掌に出した。
 車掌は、母親を招き入れた。
 そして、不気味な笑顔を、かのんに見せた。
 かのんは、ビクッとなって、部屋に戻り、ベランダの鍵を閉め、カーテンも閉めた。
 「(あさになったら、おかあさん、もどってくるよね…。)」そう思っていたけど、朝になっても、帰って来なかった。
 かのんは、お弁当も水筒も持たずに、幼稚園に行った。
 幼稚園先生は、すぐに、児童相談所に電話した。
 児童相談所の人は、かのんの父親に連絡して、かのんは、父親と暮らすことになった。
< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop