キミと、光さす方へ
☆☆☆

その日、あたしは教室に忘れ物をして慌てて戻ることになってしまった。


明日提出のプリントを忘れてくるなんてなんてドジなんだろうとため息が出る。


いつも教室で宿題をしていたから、ついそのまま机に入れてきてしまったのだ。


自分の生活習慣をもう一度覚えなおす必要がある。


そんな風に考えながらB組の戸を開けた時、松本くんがまだ教室に残っているのが見えた。


驚いて「なにしてるの?」と、声をかける。


自分の席に座って黒板へ視線を向けていた松本くんは、あたしに気がついてほほ笑んだ。


本当によく笑顔を見せるようになったと思う。


その笑顔を見るたびに嬉しさがこみ上げてくる。


同時に、その笑顔を他の子にも見せているのだと思うと、胸が痛んだ。


「告白されてたんだ」


松本くんの言葉に心臓がドキリと音を立てた。


髪の毛を切ったときから松本くんの人気はウナギ登りだ。


いつか誰かが告白するだろうという予感もあった。


でもまさか、こんなに早いなんて……。


あたしは動揺を隠して「へぇそうなんだ!」と、元気よく言い、自分の席へ向かった。


プリントと探す手が小刻みに震えている。


告白されて、返事はどうしたんだろう?


誰かと付き合うことになったんだろうか?


不安がどんどん膨らんできて、今にも泣き出してしまいそうになる。


「断ったけどね」


その声はすぐ真後ろから聞こえてきて、あたしは驚いて振り向いた。


いつの間にか松本くんは触れられるくらい近くに立っていたのだ。


「そ、そうなんだ……」


緊張で声が震える。
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