キミと、光さす方へ
ギャンブルで負けが続くと、食べ物を買うのにも苦労した。


それからしばらくして父親は完全に家に戻らなくなった。


連絡もつかず、どこかで死んでいるのではないかと街中を探し回った。


それでも父親は見つからなかった。


「ごめんね、お父さんいなくなっちゃって」


母親はまるで自分のせいだというように泣いて謝った。


その時、俺の中で父親は死んだことになった。


家に戻らないのだから、死んだも同然だ。


別に悲しくはなかった。


母親と自分に暴力をふるう男を父親だとも思っていなかったからだ。


やがて母親は夜の仕事を始めた。


最初は幼い俺を残して働きに出るなんてと渋っていたけれど、このままでは本当に死んでしまうとあせったのだろう。


夜の仕事であればなかなかの収入になるし、昼間は家にいることができるから。


夜の仕事から帰ってきたお母さんはいつもお酒やタバコの匂いがした。


いつもより派手な化粧だったけれど、それでも幼い俺は奇麗だと思って憧れていた。


「ごめんね烈」


仕事から帰ってきた母親は必ずそう言って俺のことを抱きしめた。


時には泣きながら、時には半分眠っているように。


「どうして? お母さんは仕事がんばってるね」


そう言って母親の頭をよしよしとなでた時は、母親は子供のように声を上げて泣きじゃくった。


母親が働き始めたことで、毎日ご飯が食べられるようになった。


俺はいつでもお腹がいっぱいで、元気に外で遊んでいた。


しかし、その頃から俺は孤独になった。
< 287 / 302 >

この作品をシェア

pagetop