アンコールだとかクソ喰らえ!
「……しないよ、何なの、あんた」
ボールペンは、受け取らなかった。
こんなふざけたものを書く気なんて、さらさらない。開いたそれを閉じて、突っ立ったままの来栖へと押し付ける。
「帰って」
反射で紙を受け取った来栖を視認してから、小さく、だけど聞こえるように呟く。
六年前のあの日に、私達の関係は終わった。そもそも、関係と言えるほどのものなんて、私達にはなかった。あの日のあれは、明確な区切りをつけただけの行動に過ぎない。
六年だ。六年。その間、恋人だってできた。初恋なんて引きずってない。私は、きちんと前に進めてる。
「事故って意識不明だって、同窓会中に聞いて、」
「……」
「お前が、死んだ場合を想像した」
「……はぁ、」
掘り下げれば、確かに私達はカレカノだった。恋人、だった。けれどそんなものは、あってないようなもの。
六年もあれば、ただの同窓生、顔見知り、他人、それだけの存在に成り下がる。
「結婚するしかねぇなって、思った」
「いや何でだよ」
本当。何なの。今さら。