アンコールだとかクソ喰らえ!

「……どう、しても、か?」

 視線を落としたままだから、顔は見えない。けれど、声が震えていたから、私の言わんとしていることはきちんと伝わったのだろう。
 まぁ、だからといって、前言を撤回するつもりは毛頭ない。こくりと小さく頷いて、手を離して欲しいと訴えた。

「なぁ、心咲。俺のこと、好きじゃなくていいから、側にいて、欲しい」

 だがしかし。来栖清武という男は、やはり図太い。
 好きじゃなくていい……?
 何それ。八年前の、私のセリフじゃないか。
 ほんの少しの苛立ちと、ほんの少しの軽蔑。そのふたつを混ぜて、視線にのせて、ゆっくりと顔をあげれば、ばちりとそれらはぶつかった。

「……馬鹿に、してんの?」
「……してねぇ」
「どこが? 私があんたに言ったセリフ、まんまじゃん……何なの……今さらでしょ」
「……」
「……確かに私もさ、断ったりしなかったけど、でもさ、」
「……」
「小まめに連絡くれるのも、デートに誘ってくれるのも、」
「……」
「心咲、って、名前で呼ばれるのも、」
「……」
「全部……ぜん、っぶ、つき……っあ、ってた、頃に、してほし、かっ、た、」

 自分でも驚くほど静かな声がするりと喉を通って出て行って、じわり、ゆらり、視界が滲んで、揺れる。
 次いで、ひくっ、と喉がひきつったかと思えば、吐き出す音が次々と細切れになっていった。
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