やさしいベッドで半分死にたい【完】

両手に挟まっているボールは、私が想像する以上に大きい。こんなものをあの人たちは追いかけていたのか。

こわごわと触れてみて、ぺたぺたと感触を楽しんでいる間に、目の前からボールが消える。


首を傾げたら、目の前の強奪者が笑った。

そんな風に、綺麗に微笑んでくれるのか。素直に驚いてしまった。綺麗な人だから、笑うとますますまぶしい。この世の奇跡を眺める信者のような気分になって、目を細めた。


「ぼやっとしてると負けるぞ」

「えっ……」


鮮やかな風を巻き起こして、ボールを床につきながら、ゴールへと向かっていく。

後姿の美しさに見とれてしまった。彼と同じく時を過ごしていたら、私はどんな学生だっただろう。すこしだけ、あり得ない過去を想像してしまった。

全てがあり得ない。花岡は歳上で、私はそもそも日本になど住んでもいなかった。交わらない。交わるはずもない。


綺麗にシュートを決めた人が、振り返って私を呼んだ。どうしてその唇が、私を呼んでくれていたとわかったのだろう。

もしかすると、うぬぼれだったのかもしれない。

ゆっくりと歩いて、大きくバウンドしていたボールが、徐々に跳ねる高さを低くしているのを見つめていた。

どんな音だろう。どんな高さの響きだろう。花岡は、どんな呼吸で、私を待ってくれているのだろう。
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