やさしいベッドで半分死にたい【完】
紅葉の絨毯の上に、おばあさんに借りたレジャーシートを敷いた。二人分には広すぎるサイズに笑って、ひんやりしたそれに座り込む。
低い位置から見る眺望もまた絶景で、こんなにも美しい場所なのに、誰一人いないことが不思議でたまらない。
きっと行ける場所はもっとたくさんあっただろう。私が知らないだけで、花岡はほかにも紅葉狩りができそうな場所を思いついていただろうと思う。けれど、その場所を選んだりしないことは、はじめからわかっていた。
おにぎりに齧りついて、瞼を下す。
こんなにも静かで、落ち着いた生活があったなんて知らなかった。
クラシックが好きな人には、まず顔も名前も知られてしまっている。知らない人でも、十人がいれば、そのうちの何人かにはばれてしまうだろう。
芸能人ではないのに、そういう人間のような扱いを受けることが多かった。私は神様じゃない。けれど、一度張り付けられた名前は、なかなか消えることがない。
やさしい風が吹いている。
閉じていた瞼を開けば、花岡の黒い髪が、やさしい風に吹かれてやわらかく揺れているのが見えた。森の木が細かく揺れている。きっと、さわさわとさざめくような、美しい音色が聞こえていることだろう。