やさしいベッドで半分死にたい【完】
聴くことができれば、どんなに素敵だっただろう。こりずに思い浮かべてしまった。
「何を考えてる?」
こんなにも広いのに、すぐ横に座っている人が問うた。その言葉のあたたかさに、嘘のない言葉が流れ出てしまう。
「風の音が聞こえたら、どんなに素敵だろうかと思ったんです」
絶望的なことは、なるべく考えないようにしようと必死になっていた。
医師に言われた言葉を必死で振り払って、避けるように思考をぐるぐると巡らせていた。
もう、街角に流れるメロディーも、風のささやきも、公園で遊ぶ子どもの声も、ピアノの音も。何もかも、ほとんどが聞こえない世界のまま、私は生活していかなければならないのかもしれない。その時私はどうするのだろう。
花岡がずっと私の耳元で声を鳴らし続けてくれるわけじゃない。そんなことを望んでしまったら、今度こそ私は、自分のことが嫌いで仕方がなくなってしまう。
時間が経てば経つほどに、宣告された未来の可能性が暗い影を落として、震えだしそうになる。
俯きそうになって、必死でこらえていた。きっと花岡には、情けない顔が見えてしまっているだろう。診断書を見ていたから、どんな状況なのか、はっきりと理解されているのだと思う。
それでも花岡は、私の声を聴いて、眉を顰めたり、困った顔をしたり、沈黙してしまうことなどなかった。