やさしいベッドで半分死にたい【完】
きっと花岡は、すべてを投げうってでも側にいてくれるのだろう。どこまでもつよくてやさしい人だ。


私と一緒でなければ、もっとすばらしい脚光を浴びられる。想像して、胸の奥に何かが刺さった気がした。

抱きしめる腕のつよさで、胸がねじ曲がってしまいそうだ。良くない感情の種だと気づいてしまった。非常に厄介で、鬱陶しくて、奇跡的にまぶしい。

私ではない誰かならば、まっすぐに頷いて、彼の頬に口づけたりできたのだろうか。

人間は、この感情をはっきりと嗅ぎ分ける能力を持っているのだと知ってしまった。もう遅い。

すばらしい神秘の前で、私は半分死んでしまいたい。そのまま、私ではない誰かになれたらいいのに。


「他のどんなやつらのことも、もういいだろ」

「全部忘れればいい」


全部忘れて、それで、私はどうなるのだろう。才能のある人がすべてを投げうっていることを知っていて、知らないふりをし続けるのだろうか。わからないまま、花岡の腕に抱かれて瞼を下した。

あなたの腕のやさしさにまどろみたい。

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