やさしいベッドで半分死にたい【完】
「なんだか、花岡さんに言われてしまったら全部叶ってしまいそうですね」
「そうか、じゃあ叶えろよ」
叶えるのは、いつも私だ。
諦めてきたのも私だった。どんなに絶望的な状況だって覆せるかは自分次第だ。
逃げ出したいと思いながら、逃げ出すことすらできずに、ひたすら殻に閉じこもっていた。くるしい現実から逃れる勇気もなかった。もう、好きに生きてみても、いいのだろうか。
「なんか、もう、本当は頑張りたくなかったんです」
「ああ」
「期待に応えられない自分を、嫌いになってしまいそうで」
「そうか」
「全部、無くなってしまう気がしたんです。ピアノも、音楽も、私の手から消えてしまったら」
私は空っぽなんじゃないか。それが事実なのだと気づいてしまうことが、おそろしくてたまらない。
言葉を切ったら、抱きしめたままの人が少し茶化すように言葉を送り出してくれる。
「――逃がしてやるよ、俺以外の全部から」
「その代わり、俺だけは側に置いておくこと」
あの日、「一緒に行きますよ」と言った。あの言葉が、まぎれもない本心だったのだと気づくのに、四年もかかってしまった。
花岡南朋は、嘘をつかない。
いつも真正面から向き合ってくる。そのあたたかさで、私は壊れかけた心のまま、一年間も走り抜けられた。
間違いなく、花岡の支えがなければ成し遂げることなく、この国から逃げ出していただろう。
この国に来た理由も、また花岡だった。貴女のような、素敵な人が住む土地で、呼吸をしてみたかった。