やさしいベッドで半分死にたい【完】
あたたかい車内でうつらうつらしていた記憶はあった。また、瞼にやさしい熱を感じて、次に目覚められたのは、誰かに肩をゆすられた時だ。


「藤堂」

「ん、ぅ……」

「起きられるか」

「……はなお、かさん、私、寝て……」


ルームランプが光る車内で、花岡の瞳がやさしく輝いていた。

どれくらいぶりに、熟睡していただろう。心なしか頭がすっきりしているような気がする。


「大丈夫か?」

「はい。もう、すっかり目が覚めました」


明朗に声をあげたつもりだ。花岡が少し頬を持ち上げたから、うまくいっていたのだと思う。

花岡が車から降りたのをみて、今度は助手席のドアを開かれる前に、内側から開いて飛び出してみる。当たり前に目の前に来た人が、自慢げな私を見て吹き出すように笑ってしまった。


「どうして笑うんですか」


言ってみれば、おかしそうな顔をした花岡がいつものように声を聴かせてくれる。


「あんまりかわいいから、つい、な」

「うわ」

「引くようなことじゃないだろ」

「口説かれてるみたいです」


一矢報いようとふざけ倒せば、目の前の人がやわく頬を撫でてくる。そのあたたかさだけで、降参してしまいたかった。

おそろしく都合のいい言葉を渡される予感がある。
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