残酷な天使に牙はない。



 そのクラブは、今日も人で賑わっていた。




 振動するほど大音量で流れる音楽が鼓膜を刺激する。



 踊る者、酒を嗜む者、談笑する者。そして、今夜の相手を探す者。色んな奴らが集ま
り、思い思いに楽しんでいた。



 瞬間、2階にある部屋から現れた男に、クラブにいた全員が目を奪われた。




 「アラン。本当に、もう帰っちゃうの?昨日だって、来てすぐにどっかに出かけていっちゃったし……」




 アランと呼ばれた男の腕に、女に見える中世的な少年が抱きついた。あまりの可愛さに、そこにいた多くの人たちが胸をときめかせた。




 「しょうがないだろ。俺が前に言ったこと、忘れたのか?」



 「うぅ……。だってぇ、最近、アランと全然一緒に入れないから……」




 寂しそうに、目を潤めながらいう少年の頭を、アランは優しく撫でた。彼を、彼の噂を知っている者は、その行動を見て目を見開かせる。やはりそれは、何度見ても見慣れそうにない光景だ。




 「じゃあ、週末はずっと一緒にいてやる。だからそんな顔をするな」



 「ホント!?約束だからね!」




 それに頷いたアランは、小さく笑みを浮かべてから、階段を降りていく。



 彼が進むところは、自然とひとが避け、道ができた。その道を堂々と歩く男から、目を逸らせる者はいなかった。




< 3 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop