翡翠の森

「ジェイダ様……!? 」


ロイの諌める声を聞き、ジェイダはドアの外へ飛び出していた。
一歩遅れて、エミリアが止めようと手を伸ばすが間に合わない。


「……あの。貴方はこの国に、何を望んでいるんですか? 」


安全な部屋の中で、ただ祈るのはやめたのだ。
怖くても、不安でも。
立ち向かうと、決めたのだ。


「ジェイダ」


ロイと二人で。


「もちろん、平和と安泰を」


初めて見た時から、キースの印象は変わらない。
その微笑はうすら寒く、瞳はどこか陰を帯びている。


「意外、ですか? まあ、そうですね。貴女の目には、私が破壊や侵略を好むように映るのでしょう? 」


視線がゆっくりとこちらへ移り、ジェイダは震えるのをぎゅっと耐えた。


(そうでないと言って。お願いだから)


望むものが同じなら、手を取り合えばいい。
そう思うのに、不可能だと諦めてしまう自分が嫌になる。


「キース」

「ご質問に答えたまでですよ」


庇ってくれようとする、ロイの腕にすがりつきたくなる。


(……ダメよ、ジェイダ)


そんな自分を叱る為に、両手のひらにぎゅっと爪を押し付けた。
こうしていれば、ロイに頼らずとも何とか立っていられる。


「……平和に辿り着くまでに共倒れしたら、元も子もないと思います」


そもそも、平和とは何を指すのか。
どうにかそれを手に入れられたとしても、癒えることのない、深い傷を負ってしまっていたら。
ほんのすぐ側で、誰かが打ちひしがれていたら。
それは本当に、平和を手にしたと言えるのだろうか。



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