翡翠の森
「確かに。ですが、貴女もご覧になったはず。こちらが相手を思う間に、相手は自らに有利に運ぼうとする。握手というのは、お互い素手だと信じられるからこそ、できるのです」
キースが言うことも、多分正しいのだ。
和解というのは、お互いが中間地点まで歩み寄るからこそ成立する。
どこまで陣地を広げられるかを模索していては、また争いが起こるの繰り返しだ。
現に、キャシディとのやり取りがそうだったように。
あれでは残念ながら、和平と呼ぶにはあまりにも遠い。
「キャシディ王子の言われた通り」
それでも、一歩は一歩だ。
幅は狭くとも、前に足を踏み出したことには変わりないのに。
「貴女は、何も知らなすぎるのです。麗しの乙女」
侮蔑をはっきりと感じ取り、ジェイダは唇を噛み締めた。
「控えろ、キース。彼女に対して、それ以上の無礼は僕が許さない」
「ロイ、いいの」
何故だと咎める彼に、首を振った。
今、キースと話すことを決めたのは自分だ。
(私は大丈夫)
「確かにキースさんは、同席すべきだと思います。クルルにいい感情をもっていないのなら、余計に表で意見を言われた方がいい」
出てくるのは本音ばかりではないだろうが、それならそれで、知れることもある。
「私は、あまりに知らなすぎるかもしれません。祈り子としてお話しするには、致命的かもしれない」
言われたように、小娘だった。
「でも、城下にいる、ほとんどの人はそうなんです。クルルを良くは思わなくても、攻めようなんて気は全くない。攻められることなんか、考えたこともない」
でも、だからこそ、知っていることもある。
「そんな“無知な”人々を犠牲にすればするほど、きっと“安泰”なんて束の間のことじゃないでしょうか」