翡翠の森
ここは、もしかしたら、アルバート王子の部屋だろうか。
「話し合う? それとも、せっかく恋人の部屋に来たんだから……別のこと、する? 」
艶のある言い方が、余計に空気を重くする。
「……話し合いが終わったら」
頭に浮かんだ考えを、ジェイダはすぐさま否定した。
色んな表情をもっていても、ロイはロイだ。
この部屋で眠りに就くのも、彼以外にあり得ないではないか。
「……じゃ、早く済まそう」
言い争いなんかしたくない。
ジェイダだって、年頃の女の子だ。
悲しい辛い話より、好きな人と甘い会話を楽しんでいたいけれど。
「僕は、君を連れて行かないよ」
「……そう。でも私、行くから」
ロイがどうしてもと言うなら、仕方がない。
後から何とかして、追いかけるだけだ。
「はいはい。……なら、ジェイダに内緒で発つしかないね。暫しのお別れの前に、仲良くするのもなしだ」
彼の口から出る言葉と、声との温度差についていけない。
恥ずかしい内容であるのに、その声のトーンはいつになく冷ややかだ。
「……お別れじゃないもの」
悲しい儀式めいたものなら、必要ない。
(だって、二人でいるから)
「ジェイダ」
「ロイ」
互いに名前を呼んで、睨み合う。
いつものように、アイスブルーに引き込まれそうになり、ジェイダは何とか抵抗した。
「アルフレッドやキースさんに黙って出発するのは、不可能でしょう。第一、他の人だって放っておかないわ」
まさか、単騎で乗り込もうとは、ロイだって思ってはいまい。
王子様が誰にも見つからず、国外に出るなんて……。
(いや、出たんだっけ)
デレクの頭が、痛むはずである。