翡翠の森
ロイが口を開いていったん閉じ、呆れ顔で再び喋り出した。
「……君は……よりにもよって、キースに訊こうって言うの」
「私だって嫌よ。でも、最悪、そうしないといけなくなる。今日の様子だと、キースさん喜んで教えてくれそう」
盛大に舌打ちされ、ロイが苛立っているのがすぐに分かる。
「……くそ」
彼らしくない悪態が漏れたが、聞こえないふりをした。――譲れないのだ。
「思うようには、いかないな」
もちろん、ロイの望む未来が見たい。
だが、彼の“思うように”では駄目なのだ。
(それは、ロイが自分を軽んじているからよ)
「……あの時さ。忘れもしない、君がここに来たばかりの時。そう、裸で逃げただろ」
「……裸じゃない!! 」
間髪を容れず訂正したが、それは彼の欲しがる返事だったらしく。
彼もまた、すぐにニヤリと笑ったのだった。
「あの時……僕は、君が僕になびいてくれないのか不思議だった。ジェイダが僕を好きになってくれたら、もっと楽だったのにと」
ああ、そうだ。
にっこり笑った彼の、何とも嘘くさかったこと。
「“好きにならなくてもいい”。そうは言っても、僕みたいな優しい王子様に言い寄られて、悪い気はしないだろうと踏んでたのに。……はっきり言って、ムカついたんだ」
そう言われては、苦笑するしかない。
何の身分もない、こんなにも平凡な少女に逃げられて、ロイもさぞかし複雑だっただろう。
「でも実際は、今の方がずっと面倒で……」
ロイの手が、こちらに伸びてくる。
「……ムカつく」