翡翠の森
男が、吐息とともに呟く。
咄嗟に俯いた時に流れた髪を、彼は指に絡め取った。
「いざ、こうなってみたら……本当、面倒だよ」
クルクルと巻きつけては、時折縺れにながらもスルリと抜ける。
たったそれだけのことなのに、ジェイダは限界に達していた。
「ロ……」
「好きだ」
自らの黒髪が、彼の白く美しい指先に弄ばれる。
それが異常に扇情的で、恥ずかしくて堪えられない。
「アルのいる、ここに君を置いて行くなんて癪だよ。それでも、君の無事を願っている。……他の男に守らせてでも、祈り子になんかしたくないっていうのに」
何故そこに、アルフレッドが出てくるのか。
ジェイダには疑問だったが、とても尋ねられる雰囲気ではない。
「でも君は、僕を想ってくれるから、後を追うって譲らないんだよね。すごく嬉しいけど……やっぱり、事を複雑にしてる。なのに、僕は」
いつしか髪で遊ぶのも飽きたのか、ロイの手が頬を包んでいた。
「幸せだって、感じているんだ」
不機嫌そうで、けれども喜びが垣間見える彼に堪らず口を開いた。
「ロイが好き。一人で行かないで」
泣きを入れれば、ロイが唸る。
「……あのさ。高くつくよ、ジェイダ」
そう前置きすると、深く唇を奪い続けた。