翡翠の森


「あの娘、クルルの……」

「しっ。あの国には、野蛮な者が多いと言うわ」


ロイがいない。
ただそれだけで、悪口を言う声はこうも大きくなるのか。
唇を痛いくらい噛み、まっすぐと女達を見つめた。

そんなに珍しいなら、気が済むまで見ればいい。
太陽を浴びたこの肌は、健康的で美しい。
クルルの民は皆黒髪だが、サラサラとなびけばとても綺麗だ。
ジェイダの場合はくせが強いし、おまけに今は乱暴に服を脱ぎ着したせいで余計に乱れているが。


「待って、ジェイダ……! 」


暫く呆然としていた彼だったが、ようやく気つけが終わったのだろう。
長い足が、ジェイダとの距離を縮めてくる。


「そんな恰好で僕から逃げたりしたら、部屋で何があったかと思われるよ!? 」

「どう思われたっていいわ、私は!! 」


完全に着てはいない服から、下着と肌がチラリと覗く。
どんな状況での痴話喧嘩かと、思われそうである。


(……今更、気にしたって遅いもの! )


一瞬立ち止まりかけたが、もうやけくそだ。
途中すれ違う何人もの人のたちの目から逃げるように、どこもかしこも真っ白で美しい城内をひたすら駆けた。
道が合っているのかも不明だが、ともかくロイに捕まりたくないのだけは明白だ。
しかし、偏見かもしれないが、王子様のくせに速い。


(追いつかれちゃう! )


「……~~ああぁぁ、もう……!! 」


それでも追う方にしてみれば、苛立ってしようがないらしい。
彼らしくない唸り声とともに、強めに腕を掴まれてしまった。


「そうだよ。君は誰の目も気にすることない。綺麗なんだから。誰が何て言ったって」


借りたままだった外套を肩に掛けると、一気にジェイダの体を包んでしまう。
追いかけるのが遅れたのは、これを取って来たからかもしれない。


「そうは言っても、女の子がそんな恰好で。いくら僕を何とも思わないからって、それはないんじゃない」


足を止めてロイを正面にした途端、羞恥心に支配される。


「部屋に戻って。……お願いだから」


こそこそと話し声がする。
どうやら本当に、痴話喧嘩だと思われているようだ。


「じゃないと、お姫様抱っこしてでも連れて行くよ」


さあ、どうする?

ロイが試すように、腕を組んでこちらを見ていた。

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