翡翠の森




・・・



真っ赤な頬を隠すように扉に背を向けたジェイダの姿を、視界から消すことができない。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、ロイは踏ん切りをつけるように息を吐いた。


「ジェイダのこと、頼んだよ」

「本当は、ご自分がいて差し上げたいのでは? 」


名残惜しい。もう少し、いや、もっと側にいられたら。
せっかく大人しく腕にいてくれたのに、離したくなどなかった。
そんな想いに気がつけば、十日という期限が胸をひたすら重くする。
ジンに念を押せば、涙の残る瞳で笑われてしまった。


「だとしても、僕はまだ許しを貰ってないから」

「応援しています。……負けないで下さい」


頷いてドアを閉めると、そこには兄が待ち構えていた。


「……どうだ」


どうやら彼も、ジェイダが心配で仕方ないらしい。


「何が? 」


面白いのでとぼけてみると、


「……ジェイダの様子だ」


舌打ちをしたが、我慢できずに尋ねてくるくらいに。


「いつから、名前を呼ぶようになったの? あんまり嫉妬させないでよ」

「ふん。余裕ができるほど、あいつと進んだか? それとも」


――腹を括ったか。


「もしも、雨が降らなければ……

「降るさ」

「……もしもだ……!! 」


歩みを止めないでいると、ぐっと胸倉を掴まれる。


「アル。国王でしょ。しっかりしなよ」


一人決意したことを悟られてしまったらしい。
誰にも伝えるつもりはなかったが、やはり鋭い。


「まだ違う。お前こそ、馬鹿なことは考えるな」

「考えてないよ」


(……アルは二人もいらないんだよ、兄さん)


もし……もしも、期限内に雨が降らなければ。
万一、ジェイダを捧げるような、ふざけた真似をしなければならないのなら。


(わりと本気でプロポーズした子を、一人にできるはずないだろ)


――アルは、一人でいい。


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