ささやきはピーカンにこだまして
「八木先輩、さよなら」「先輩、…したっ!」
ドアに向かうわたしの横を、アリーナの掃除をする1年生がモップを手に走っていく。
あの子たちには、わたしはなんの疑問もなく、ただの八木先輩。
だけど――…。
「姉貴ィ。準。話は終わったの? ねぇ、なんか食べてこ。腹へったぁ」
「おれはいいけど。……イチローさんの都合も聞かないで、おまえ」
「な一に今さら気ぃ使ってんだよぉ。ねー、ねー、姉貴、おごって? おこずかい、出たばっかじゃん」
これだもの。
「二紀、あんたねぇ……。わたしを巻きこむの…やめなさいよ」
二紀にとってわたしは結局《先輩》じゃないように。
わたしも二紀の《先輩》にはなりきれなくて。
準は、二紀といっしょに来たから……。
わたしは準に《先輩》の顔をしていないのかもしれない。
「じゅーん。おごってもらおうよう」
「ばか言ってなさい」
二紀のおでこを小突いたわたしに味方して、準が二紀を羽交い絞めにする。
「ほら二紀。おれらは掃除。…じゃ、またね」
二紀を引きずって行きながら、準が笑った。
「うん」
わたしが歩いているのは、ぐにゃぐにゃのボーダーラインの上。
1年で、2年で。
だけど同じ16歳。
ケジメをつけなくちゃいけないのはわたしのほうなんだ。