ささやきはピーカンにこだまして
 ちゃぷんちゃぷん、のんきなお湯の音がする。
「なに言ってるの。二紀(にき)はあなたがお風呂に入る前からいないわよ。どこだかの体育館に行くって。あなただって聞いてたでしょ」
「…………」
 どこに弟の言うことを真面目に聞いてやる姉がいると思ってるの?
「いつ? いつ帰るって?」
「なんなのよ、もう。11時には帰るって言ってたでしょ」
「今、何時?」
「そんなことママにわかるわけないでしょ、お風呂に入ってるのに」
 ひ――っっ。
「ママ! 早くお風呂でて!」
「いやぁよ」返事は簡潔。
「ママが管理してる家に、ゴキブリが出ると思ってる娘のことなんて知らないわ」
 ぎゃああああああ。

 早くお風呂、出てよぅ。
 早く帰ってきてよぅ。

 リビングのソファーに足を引き上げて。
 床は断固として視界に入れずに見た10時のドラマ。
 早かったのは下僕ブラザーのお帰り。
 ゴのつく虫が出ても、二紀に退治させればいいや、と思った瞬間に足が床に降ろせるわたしって。
「ただいまぁ」
 玄関で聞こえた声に、迎えに出る余裕も生まれる。
 スキップでお出迎え。
「こんな時間まで、がん…」
 リビングのドアを開けて、玄関ホールをのぞいたとたん息が止まった。
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