ささやきはピーカンにこだまして
「バドはリストの強さが大事だって」
 うん。
(じゅん)が姉ちゃんに基礎練を増やされたって言ってたから。…どお? ぼくたちってスポ根?」
二紀(にき)……」
 取扱説明書そっちのけで、キッチンに向かう二紀に声をかけておいて、わたしは、なにを話したいのか自分でもよくわからない。
「なぁにぃ?」
 ニ紀は作業に夢中で、わたしに背中を向けたまま、返事も軽いのが救いだけど。
「準…ってさぁ」
 こんなことを聞いたって……。
「うん?」
「もてるよね、きっと」
 そうに決まってる。
「さぁねぇ、寄ってくる子は大勢いたんじゃない?」
「ふ…うーん」
 そうだよ、ね。
「なんでそんなこと聞くのよ」
「なんでって……」
 なんでだろう。
 二紀が、たっぷり水が入って見るからに重そうになったアレイを手に、満足そうにテーブルに引き返してきながら、鼻歌まじりで笑った。
 心なしかそれがとてもやさしい顔に見えるのは、弟にすらすがりたいほど自分が困惑しているせいかと思えばなさけないけど。
 話し相手になってくれそうだから、もう少し甘えてみる。
「よく…わかんない」
「そか……。わかんないか」
 二紀の返事はあっさりしていたけど、アレイを振る動きを続けながら、なにかを思い出すような顔になった。
「準はね、興味なかったと思うよ、女の子たちには。――テニスの鬼だったし。ぼくですら近寄りがたかったからね」
 ぼくですらって……。
 何様だよ。
「…………」
 二紀様、だな。
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