ささやきはピーカンにこだまして
 握りしめてしまったケータイはひとのものだ。
 弟でも大切にしてあげなきゃいけないプライバシー。
 返すために階段をとぼとぼ降りると、キッチンからはまだ母子の楽し気な言い合いが聞こえていた。
 言い争いすらも楽しそうに聞こえるって、末期だな。
「あら一路(いちろ)。あなたもお弁当なんでしょ? 卵焼きはどうする? 二紀(にき)はもう甘いよりもお出汁のほうがいいんですって。あなたも?」
「知らないっ!」
 ケータイをソファーに投げて(きびす)を返すと、二紀の悲鳴が聞こえた。
「ママ見た? 姉ちゃん投げた! ぼくのケータイ投げた!」
 やかましい!
「んもう! 準のほうが強いからってなんなのよ。姉ちゃんは女の子なんだから、しようがないっしょ」
 しようがないこと、あるもんか。
 ばか!

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