ささやきはピーカンにこだまして
 上に行けないなら下に行く。
 階段を、教室に向かうみんなとは逆方向に駆けおりた。
 あと4段というときに。
 身体の横をかすめて飛んだ赤い影。

 血だ。
 血だ!
 (じゅん)の大切な右手ににじんだ血。

 わたしの脚がやっと下から2段目にかかったときには、もう、わたしは準のテリトリーのなか。
 聞こえないふりはできない距離で、また向き合っていた。
「もう、いいよ。わかってる。……あなたはぼくがやめると思ってるんだ。迷惑だって言ったら、ぼくがバドミントンをやめちゃうって。そうでしょう?」
 そ…んな……。
「ぼくの存在価値なんて、結城先輩の引退に花を添える道具でしかないものね。やめられるのはいやだよね」
「ゃ…」
 そんな!
 やめて。
 身体ががたがたと震えだす。
「ばかにされたもんだよね。……ぼくは自分で選んだ。あなたの道具になったわけじゃない。そのくらい、わかってくれてると思ってた」
 ち…がう。
 ちがう。準。

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