ささやきはピーカンにこだまして
 そ…んなふうに、わたしを見ないで。
 まっすぐにわたしを見る。
 なにもかも飛び越えて、わたしの前にやってくる。
 きみがこわいよ。

「――ごめん」
 きみが望んでいるのは、なに?
 きみが見ているのは、どんなわたし?
「そ…んなふうに思わせたことは…あやまる。でも、きみだって強くなりたいでしょ? 勝ちたいでしょ? だったら決定には従って」
 簡単にきみに降参しちゃう、弱い《先輩》にだけは、なりたくない。
 わたしはまだ強がれる。
「先輩!」
 今、追いかけてきてくれたら。
 境界線のまえから逃げ出すことしかできないわたしの頬が、ぬれているのは雨のせいじゃないって、きみにだってわかるのに。
 きみに知られてしまったら。
 わたしも少しは自分に正直になれるのに。
 でも。
 それは――…
 それは、いやなの。

 くるりと背を向けて駆けのぼる階段に、きみの足音は聞こえない。


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