ささやきはピーカンにこだまして
 会話はわたしをおいて進んでいく。
「たーだーし。条件があるわよ」
「きゃっ」ふいをつかれて声が出た。
「いやだ、お母さん。いいおとながお箸を振り回さないでよ。ご飯つぶ、とんできたよ」
一路(いちろ)
「なによ、もう」
「資金はあなたに全権委任するわ。あなた、二紀(にき)といっしょに行って、なにかお見舞いにふさわしいものを、ちゃんと! 買ってやってちょうだい。二紀にお金を渡すと9割デート資金に消えそうだから」
「ええっ。なんでわたしも?」 
「なんでデートだってわかったの?」
 母さんがゆったりと腕を組んでわたしと二紀をにらむ。
「えへへへ」
 最初に笑ってごまかそうとした二紀が、わたしのお皿からまたアスパラを取っていったのに。
 なに、なに、なに?
 わたしひとり、パニック。
「ふふーん、だ。おみとおしよ」母さんは胸を張って、ご飯をぱくつく。
「ほら、アーケードの、すっごくかわいいフルーツバスケットを作ってくれるお店、あなたも知ってるでしょ、一路。あそこなんかどうかしら」
 えっ。
「あ? ……うん」
 そ…うだよ、ね。
 びっくりした。
 なにも、準の家に行けっていうわけじゃ、ないんだよね。
 やだ、わたしったら。


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