ささやきはピーカンにこだまして
「ちょっと、姉ちゃん。そんなカッコで行くの?」
 そんなカッコって。
「たかが駅前まで行くくらい、いーじゃん、これで」
 毎度おなじみのジーンズだけど。
 別に汚れてるわけじゃないし。
 なに言ってるの、突然。
「ほら、あれ。あれにしなよ。このあいだ買ったデニムのジャンスカ」
「よくおぼえてるわねぇ、ひとの買い物まで。――あれは気の迷いだった。失敗。…わたしにスカートなんか合わないって」
「あれにしてっ!」


 土曜日の午後1時。
 結局、強引に着替えさせられて。
『しっかり領収書を持ってくるのよ』っていう母さんの声におくられて、二紀(にき)とふたりで来たのは、母さん推薦のくだもの屋さん。
「姉ちゃん、ほら、こっちの梨とかは? 皮をむかないと食べられないかもだけど…」
「なによ。おつりは返さないつもりなんでしょ? そんなブランドもの。うわ、高っ。信じられないこと言うわね」
「友だちだもんね」
「…………」
 友だちか……。
 先輩とか後輩とか、そんなのじゃなく。
 (じゅん)がただの二紀の友だちだったら、どんなによかっただろう。
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