ささやきはピーカンにこだまして
 何度もインターホンのボタンを押しかけて止まってしまう指がなさけない。
「あああああ」
 頭をぷるぷる振っていたら、カチャリと音がして。
「んもう。かわいいけどね。…いいかげんにして」
 ドアが開いた。
「……ぁ……」
 頭、真っ白。
 考えていたご挨拶の言葉もとんでしまったけど。
(じゅん)! 起きていいの? 熱は? 苦しくない?」
 ブルーのチェック柄の上下がパジャマだということにすぐに気づいて、無意識に手がその額に伸びていて。
「――ごめん。入って」
 赤い顔で、こふこふと咳をした準に促されるままに室内に入る。
 準は黙ってスリッパをセットすると、先に立って奥に向かった。
「あの、おうちのかたは? ご挨拶して、あの、すぐに帰るから――…」
 準?
 返事をしてくれないので、仕方なくついていく。
 ドアの先はリビングだった。
「ごめんね。ぼく、コーヒーくらいしかだせないんだ。そこ…座ってて」
 えっ?
「あ…の、おうちのかたは?」
「みんな学校。……あ、姉は大学生だけど。父と母は教えるほうね。ぼくだけ完2休の私学に入っちゃって――。週末はいつもひとりなんだ」
 準……ひとり?
「あの…、だって…」
 その先を言ったらいけないのは、わたしにもわかる。
< 182 / 200 >

この作品をシェア

pagetop