ささやきはピーカンにこだまして
 うちに母さんがいつもいてくれるのは、ぜいたくなことだ。
 ご両親が働いてらっしゃるなら、(じゅん)は身体の具合がよくないときも、きっといつもひとりで耐えているんだろう。
二紀(にき)のやつ、今日、四條畷とデートなんだって?」
「…………」
「ビックリだよね。いつの間に…って思わない?」
「…………」
「ねえ、お砂糖いらないんだったよね」
「…………」
「どうしたの? 冷めないうちにどうぞ」
「………………ありが、と」
 サーバーからついでくれたコーヒーの香りにも、まだぼーっとしてる。

 強い子なんだな。
 ひとりで、さびしいだろうに。


 ふたりして黙ってコーヒーを飲んで。
 いきなり準が咳きこんで、わたしは自分の立場をやっと思い出していた。
「わたしのせいだ!」「ごめん、気管に入っちゃった」
 ふたり同時にカップをソーサーにもどして、言葉がバッティング。
 白木のテーブルの向こうで準の口元が最初に笑う。
 それから目が。
 最後に声が。
「ふふ。本当になんでも顔に出ちゃうんだなぁ。わかるよ。具合の悪い子をひとりおいて、だれもいないのか…って。思ってるよね」
「…………」
 全力で首を横に振る。
 思ってない。
 思ってないよ。
「わりと虚弱なんだけど。まぁ、いつもこんなだな。慣れてるし平気だよ」
「…………」
 ばか。
 先回りして弁解しないで。
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