ささやきはピーカンにこだまして
 キュイーッとかわいそうな音をたてて、椅子の背もたれがきしむ。
 二紀(にき)はあからさまに不機嫌に唇をとがらせて、わたしを振り返った。
 両腕をおなかの上で組んで、ふんと鼻息。
 そんなにふんぞり返ったら、お椅子がこわれてよ、二紀ちゃん。
「――で、なんなのよ。何人必要なの? えっ?」
 そうそう。
 おとなしく下僕になりなさい。
「男子ひとり。少なくとも」
「ばっっ! …なに言ってんのさ。男の話なの? そんなの無理に決まってら。バドなんかやるくらいなら硬テやるだろ、みんな」
「なんか――?」
 一歩ふみこんだわたしにあせった二紀の背中が、ますます反る。
「あ、ごめん。でも――…」
「あんた、あのミドリジュンって子とつきあうの…やめたほうがいいんじゃないの? なんなの? その言いようは」
「…………」
 ずいっとまた一歩。
 もう二紀の鼻は完全にわたしの射程。
「…ぇと。このあいだ(じゅん)が言ったこと…まだ怒ってんの?」
「べつに……」
 怒ってなかったわよ。
 あいつのことなんか、きれいさっぱり忘れてたわ。
 でも。
 思い出した。
 思い出したら止まらないじゃないの。
 あ――っ!
 腹が立つ!
「とにかく男! 見つからない場合はあんた。はい、相談は終わり。あ、期限は明日の昼休みまでね。以上」
「な…。姉ちゃん、なに言ってんの?」
 あんたが悪い。
 つまらないことを思い出させるから。

 ばたんと閉めたドアごしに二紀の声。
「姉ちゃん…待って! これのどこが相談よ。ちょっと!」
 そのとうり。
「命令は高いほうから低いほうに流れるのよーん」
 わたしは美香キャプテンに命令されたわけじゃないけどね。
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