ささやきはピーカンにこだまして
 ぐすぐす泣いている子たちを教室にもどす役は桃子に頼んで、わたしは結城先輩を3階の1年生フロアの中央ロビーで待った。
八木(やぎ)……」
 今日の先輩は白地に青のストライプシャツに、クリーム色のコットンセーターを羽織っている。
 おとなだぁ。
 これから自分がすることを思うと、顔から火を吹きそうだけど。
 名前だけの部員なんか集めて、先輩が心から試合を楽しんで戦えない状況になるくらいなら、へたでもちゃんと部員として試合に出せる二紀(にき)は必要だ。
 試合のあとはやめてもいいなんて。
 そんな汚い約束は、わたしと二紀ですればいい。
 結城先輩にはキャプテンとして最後の公式試合を全うさせてあげなくちゃ。
 それだけを思えば本気で泣けるはず。

「行きましょう。ラストチャレンジです」
 ぐっと拳を握ったわたしに気づいて結城先輩がおだやかに笑ってくれた。
「そんなに悲壮に青い顔するなよ、八木。もう部員登録はもらってるからな、大会には出られるよ、おれたち」
「でもそれ……」
 幽霊部員でしょ。
 試合にも来てくれないひとたちですよね。
 まぁ、初心者の新入生なんて、今から2カ月(きた)えたところで、試合で1点とれるかどうかも疑わしいし。
 二紀だって試合会場に強制的につれて行けるっていうだけで、その名前だけ貸してくれた3年生と、なんら変わるものじゃないけど。

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